【本レビュー】 空飛ぶ広報室 有川浩

空飛ぶ広報室 有川浩

図書館戦争がきっかけだったか記憶が定かじゃないですが、有川さんの紡ぐ物語がかなり好きなんです。ベタ甘ラブコメなんて印象もあるかと思うのですが、ディテールや人の気持ちの動きなんかが、ちょいちょいと琴線に触れてきて、のめり込むように読んでしまったりします。基本的に読んでることを忘れて没頭するような小説が好みなので、スッと文章が頭に溶け込んでいく感じも僕には最高だったりします。

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感情が溢れ出る瞬間

テレビドラマ化されているようなので、内容的にご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、本当にたまたま、それなら自分にじゃなくてもいいじゃないかというような、そんな事故に巻き込まれてしまう空井。ブルーインパルスのパイロットという夢まであと少しというところでのパイロット資格のはく奪という出来事は、本当なら「悔しい」「なんで俺が」「どうして」などいろんな気持ちが駆け巡るはず。ところが、空井はそれを表に出さずにパイロット空自の広報室に異動となる。

その押し隠した感情が、あることをきっかけにあふれ出してしまうのだが、その場に居合わせるのがTVディレクターの稲葉リカ。そのリカも挫折をしていたり、自衛隊というものに対しての凝り固まったイメージを持っていたりと、なかなか素直になれないキャラクターだったりするんですが、こちらも空井のや他の広報室の面々の心のほぐしを受けて、変化していくのだ。

ニヤリとさせられる展開、しっかりとした舞台

ラブコメではないんだども、素直に気持ちが出せない同士のもどかしさは、読んでいてニヤリとしたり、時にはこっちが恥ずかしくなってくる部分もあったりします(ま、それがまたいいんだけどね)。ただ、その中でもディテールというか、登場してくる人が生き生きとしていて、きっと実在している人を参考にしているんだろうと思って読んでいたら、ある程度は正解でした。でも、ただ登場してくるだけではなく、取材をいかしてしっかりとした舞台を作り上げ、その中でキャラクターが気持ちよく動いているという感じがしました。どの人もいいんだよなぁ、本当に。

それぞれに主人公になる瞬間があり、気持ちの揺れ動きも描かれ、サイドストーリーなんだけどもでも、ストーリから外れずに納まっている…これも読んでいて気持ちのいい部分。このあたりは有川作品の真骨頂かなあと思ってます。

そして3.11後の福島にて

東日本大震災が起こり、津波が襲い、被災した事実。それを稲葉リカの視点で最後に紡いでいます。誰もがあの地震で大変なことになった、これは自衛官も例外じゃないという意味。読んでいて考えさせられる部分です。ストーリーを通して【自衛官も人間なんです】という、当たり前のこと。でも、どういう風に動いていたのか、働いていたのか、そういったことを知ることができたのはものすごく良かったと思っています。

まだまだ日本中・世界中で災害などが起こっている時代です。それを踏まえて、読んでみるのもいいんじゃないかなと思います。もちろん、物語として面白いのでそれだけでも買いなんですけどね!

裏表紙から引用

不慮の事故で夢を絶たれた元・戦闘機パイロット・空井大祐。異動した先、航空幕寮監部広報室で待ち受けていたのは、ミーハー室長の鷺坂、ベテラン広報官の比嘉をはじめ、ひと癖もふた癖もある先輩たちだった。そして美人TVディレクターとの出会い……。ダ・ヴィンチの「ブック・オブ・ザ・イヤー2012」小説部門第1位のドラマティック長編。

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