結構前の事になるんですが、新橋のTSUTAYAで手に取った本が越谷オサムさんの「ボーナス・トラック」でした。当時、携わっていた業務の関係で週に1回、新橋に通っていたんですが、先方にトラブルがあって時間が出来てしまいふと寄った本屋さんがTSUTAYA。この物語とは、そんな偶然が重なった出会いだったんです。
タイトルからでは想像のできない内容というのでしょうか、「ボーナス・トラック」という言葉の意味といえばレコードやCDなどに追加収録された曲というのが一般的じゃないかと思います。いわゆる“おまけ”とか、本編とは別についてきた“ラッキー”的な要素というべき感じのもので。まあ、大きな意味では外れてないんですが、この物語における「ボーナス・トラック」は死後の世界だったりするんです。
ちょっと大げさな言い回しになってしまいましたが、どういう事かというと作品の中で轢き逃げにあってしまった横井の幽霊としての人生。つまり本編が終わってしまった横井に付与された幽霊としての成仏するまでの“おまけ”的な人生のことを指しているのだ。
とはいえ、シリアスではなくユーモラスでファンタジーな世界であり、その轢き逃げを目撃してしまったファストフード店の社員である草野とともに轢き逃げ犯を探すのが本筋なのだが、ハンバーガー店で織りなされる店員たちの青春模様にも絡んで来たり、幽霊と主人公がドタバタとしながらも活躍するあたたくて楽しいストーリーだったりします。第16回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作品ですが、ミステリっぽい面もあり読み応えも十分でした。
あとがきを見て購入を決めた
本を手に取るときって、タイトルや帯、冒頭部分のつかみも重要だと思うんですが、「あとがき」もちらっと見たり…しますよね? この時はまさにそれで、あとがきの部分をペラッと開いたときに書いてあった文章を読んで、そのままレジに持っていた記憶が残っています。具体的には荒俣宏さんの選評について書かれていた部分で、
「かつての日本人の霊へのかかわり方は、盆踊りや阿国歌舞伎に代表される「この世での霊俗交歓」にあった」と述べ、「そうした可能性を持つ作品がこれで、亡霊と人間が仲良くドンチャン騒ぎを演じてくれる」と本書のポイントを指摘している。
引用:あとがき(解説)
これをみて、なんだか楽しい物語のイメージが湧いてきて、面白い本に違いないと決め込んでレジに持って行ったんですよね。結果、大正解でした。
生身と幽霊が交流し、お互いに影響し合う部分っていうのは、日本でのお祭りや古い物語などでもみられるものであり、万物に神がいるという部分にもつながってくると思うんですよね。でも、壮大じゃなく、とても身近でありすぐそこにいるっていう距離感も重要。もしかすると、自分の身の回りでの起こっているのかもなんて想像すると怖くもあり興味深くもあり、不思議な感覚にさせてくれます。
もちろん、そんな理屈関係なしに、物語として読んでいて楽しく痛快な作品でした。
裏表紙から引用
草野哲也は、雨降る深夜の仕事からの帰り道、轢き逃げ事故を目撃する。雨にさらされ、濡れた服のまま警察からの事情聴取を受けた草野は、風邪をひき熱まで出てきた。事故で死んだ青年の姿が見えるなんて、かなり重症だ……。幽霊との凸凹コンビで、ひき逃げ犯を追う主人公の姿を、ユーモアたっぷりの筆致で描く、第16回ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞の著者デビュー作。