万城目作品といえば、ホルモーや鹿男、プリンセス・ヨシトミなどその不思議な世界でのお話が多いかと思います。和風のファンタジーと呼んでもいいかもしれません。
今回の「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」もその例に漏れず、独特な世界になっています。まあ、猫が出てくるってだけで手に取ってみたという部分も無きにしもなのですが、ほっこりとするいいお話になってました。ほっこりしたいならお勧めですよ。
猫と犬とかのこちゃん
小学校1年生のかのこちゃんは、いろいろなことに興味を持ち始める時期で、それを知識としてドンドンと吸収していく。その成長を見守る一家とマドレーヌ夫人。夫人は夫人で猫ワールドでのご近所付き合いやちょっとした冒険と動き回り、そしてなぜか年寄りの柴犬の玄三郎とは夫婦関係。猫と犬とかのこちゃんとの距離なんかが微妙にいい具合で心地よいのだ。
かのこちゃんは、とにかく欲求に純真で無垢、集中すると突っ走ってしまう危うさを持っている幼い女の子。猫の行動範囲を調べるのに塀の上に登ってついていくなど、想像するだけで心配してしまう行動力。さらに、周りをかためる同級生のすずちゃん・まつもとこうたなども実に生き生きしてて、かのこちゃんとの掛け合いが、これまた気持ちがいいぐらい清々しい。
その一方、玄三郎が段々と元気がなくなっていくくだりは、避けては通れない老いと死むけて考えさせられる部分もあったりする。マドレーヌ夫人との馴れ初めエピソードもじつにいいし、猫同士の集会での情報交換なんかは、日ごろ見かける猫たちがもしかするとこんなことしているのかもなんて思わせてくれる。
日常なんだけど、非日常。ちょっとした風景がちがったものに感じられそうな、そんな物語になっている。
やっぱり和風ファンタジー
猫又といった妖怪っぽい話もあったり、かのこちゃんのお父さんは実は鹿男の主人公なのでは(?)と思わせる一文があったり、万城目ワールドといわれる独特な世界はこの作品でも健在だ。とはいえ、家やその庭と周辺という「ちいさな世界」で繰り広げられる話なのにドンドンと引き込まれていくのだから、その世界の構築には本当恐れ入る。
もしかすると、かのこちゃんが大きくなった時にはこの半分も覚えていないのかもしれない。実際、自分に当てはめてみても大半の事は忘れてしまっているし、全てではないにしろ似たような経験はしてきているはずなのに…。だからこそ、読後に心の奥がほっこりとして灯がともったような感じになるのだろう。懐かしいというか、あの頃は…という回顧っぽい部分も心を緩やかに揺さぶってくるのかな。ま、そんなに活発な子供じゃなかったけどもね(笑)。
裏表紙から引用
かのこちゃんは小学1年生の女の子。玄三郎はかのこちゃんの家の年老いた柴犬。マドレーヌ夫人は外国語を話せるアカトラの猫。ゲリラ豪雨が襲ったある日、玄三郎の犬小屋にマドレーヌ夫人が逃げ込んできて……。元気なかのこちゃんの活躍、気高いマドレーヌ夫人の冒険、この世の不思議、うれしい出会い、いつか訪れる別れ。誰もが通り過ぎた日々が、キラキラした輝きとともに蘇り、やがて静かな余韻が心の奥底に染みわたる。